エモーショナルの向こう側

思いの丈をぶつけに来ます

私と『王様達のヴァイキング』

 

今日、大大大好きな漫画が最終回を迎えた。
週刊ビッグコミックスピリッツで連載されていた、『王様達のヴァイキング』という漫画だ。

描いているのは、さだやす先生。これが初めての本格的な長編作品だが、とてもそうは思えないほど漫画がめちゃめちゃ上手い。そしてストーリー監修には深見真先生が協力している。


どんな漫画かは、とりあえず1話を試し読みしてみてほしい。

 


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王様達のヴァイキング 1巻 さだやす・深見真 - 小学館eコミックストア|無料試し読み多数!マンガ読むならeコミ!

 

 

漫画めくるのダルいとか、声優さんが好きな人は、dtvでムービーコミックにもなってるので、そちらを観てもらうのもいいかもしれない。
ムービーコミックは漫画のコマが勝手に動くし、声がついてる。主人公の少年ハッカーはCV.小野賢章さん、エンジェル投資家はCV.関俊彦さんで、どちらもはまり役です。

 

予告編

https://youtu.be/O66gTpAKCj4

 

第一話

https://youtu.be/PK1fN3W3BR4

 

 

 

 

 

でも、今日は布教をしたいわけではない。
いや布教もしたいけど、今はそれどころじゃない。
今はとにかく最終回を迎えてぐちゃぐちゃになったこの気持ちをなんとかしたい。

 

こんな書き方をすると、最終回が衝撃的だったみたいだが、めちゃめちゃ良かったんだ……。本当にめちゃめちゃ良かった……良すぎて衝撃的だった……。
最終章突入が発表されてから今日までの10ヶ月余り、この日が来るのがこわくてこわくて仕方なかったが、こんなに幸せなことがあっていいのかと思うほどのハッピーエンドだった。幸せすぎてこわいぐらい。

 

上の試し読みで1話を読んでくれた人はわかると思うが、主人公の是枝くんはとても不器用な少年だ。
自分のやりたいことがわからず、自分に何ができるかも知らず、生きづらさに喘ぎながらクラッキングを繰り返している。
そんな是枝くんが、エンジェル投資家・坂井さんに見出だされ、自分の能力を人の役に立ててお金に換える経験を通じて、成長していくのがこの物語の軸だ。

この是枝くんの成長がものすごい。
人と上手く関わることができず「PCが僕の全てなんです」と言い切っていた少年が、PCを通じて人と関わることができるようになっていく。

是枝くんは確かに"天才ハッカー"だが、是枝くんのような人間は現実世界にもたくさんいると思う。
自分で自分のしたいことやできることがわからずに、わからないこともわからないままに足掻くしかない。
自分の好きなもの・一生懸命になるものが他人に理解されない。
あるいは、周囲に理解されず、傷ついた心を何かにのめり込むことで癒そうとする。
自分はただ、"自分自身"になりたいだけ、"自分自身"でありたいだけの、そんな人間は、この世界にたくさんいると思う。


そこに現れる天使が、坂井さんだ。
坂井さんは、孤独な魂を見つけ、そこに潜んだ欲望を引き出し、そして広い世界へと連れていってくれる。


坂井さんのすごいところは、是枝くんを否定しないところだ。

もちろん、ダメなものはダメだとはっきり言う。
でも、是枝くん自身が何を考えているのか、どうしたいのかを、いつでもちゃんと聞いてくれるのだ。


共感はできなくても、理解しようとしてくれる。
きちんと、自分の言葉に最後まで耳を傾けてくれる。


是枝くんが求めていた"大人"は、きっと坂井さんのような人だ。
"子ども"に一番必要な存在と言ってもいいかもしれない。

 

そして、坂井さんが否定しなかったもので一番重要なのは、是枝くんとPCの関係だと思う。


是枝くんは、PCがあれば無敵だが、PCがないと何もできない。

これは完全に妄想だが、おそらくこれまでに是枝くんに関わってきた人は、そんな彼のことを思って、「"PCなしで"生きていけるように」と働きかけてきたのではないかと思う。
そして是枝くん自身も「"PCなしで"社会生活を送らなきゃ」と無意識に思っていたのだと思う。
それは確かに必要なことかもしれないが、でも、それだけが本当に正しい生き方なのだろうか。

坂井さんは、是枝くんに「PCと共に自分も生きる」、そんな道を提案してくれた。そして、それを実現に導いてくれた。

「"PCなしで"世界と繋がる」のではなく、「"PCで"世界と繋がる」。
このことが、是枝くんを自由にし、是枝くんを"是枝一希"にしてくれた。

 


さまざまな事件を解決し、多くの人と関わる中で、是枝くんは自信をつけ、自己肯定感を育み、自分自身と向き合っていく。
自分は何ができて、何がしたいのか、言葉にできるようになるし、形にできるようにもなる。


坂井さん自身が常に欲望を形にし続けて生きてきた人だということも大きいだろう。
"子ども"は身近な"大人"を見て育つ。

 


個人的な話をする。

王様達のヴァイキング』に出会った当初、私はまだ学生だった。
将来、何になりたいかもわからず、ただ漠然と大学生活を送っていた、どちらかというと是枝くん側の人間だった。

もちろん私には是枝くんのような天才的な能力はない。
だから余計に、自分は何ができて何がしたいんだろうともやもやした時期もあった。


時は流れ、私は今、子どもに関わる仕事をしている。
いつの間にか、どちらかというと坂井さん側の立場になっていた。


この立場になってから改めて『王様達のヴァイキング』を読むと、坂井さんの是枝くんに対する姿勢はある種の模範解答に近いなと感じるようになった。

寄り添う。否定しない。最後まで話を聞く。
本当に大切なことは、本人が自分で言葉にして口に出せるようにする。

時には無邪気にはしゃぎ、時には冷静に判断し、いつだって自分自身を見つめ直すことを忘れない。

坂井さんのような"大人"として、"子ども"のそばにいれたらいいなと思う。
"子ども"に限った話でなく、相手が部下などでも同じだろう。

 

そして私がこの仕事をしていてつくづく思うのは、「自分のしたことがどう相手のためになるか、本当のところはわからない」ということだ。

普通の会社なら売上のように目に見える形で結果が出ることもあるだろうが、この仕事だとそうはいかない。

結果が出るのは一年後かもしれないし、十年後かもしれないし、永遠に出ないかもしれない。

それが良い結果といえるのか、それとも悪い結果なのかも、本当のところはたぶん誰にもわからない。

ただ、そんな中で、今、一番良いと思える道を常に模索し続けるしかない。
少しでも、その子のためになるように考え続けることが、最善だと信じるしかない。

 

 


王様達のヴァイキング』の話に戻るが、是枝くんを育てた坂井さんも、同じようなことを考えたのではないだろうか。

坂井さんは今までにたくさんの人たちに様々な投資をしてきただろう。

でも、そんな中でも是枝くんのような存在は、きっと坂井さんの中でも初めてで、特別だったのではないかと思う。


これも私が仕事をする中で聞いた話だが、人と人は"鏡"だ。
向き合うことで、相互に作用する何かがある。


是枝くんとって坂井さんが特別な存在であるように、坂井さんにとってもまた是枝くんは特別な存在であったはずだ。

 

そんな是枝くんは、坂井さんの庇護のもと、大きく育ち、自分の足で真っ直ぐ立って歩けるようになった。
自分の気持ちをしっかり伝え、自分のやりたいことを形にできる、立派な"大人"になった。

 

そんなとき、坂井さんは考えたのではないだろうか。
「自分のしたことが本当に彼にとって良かったのかはわからないが、自分は是枝と関われて良かった」と。

だから、坂井さんは是枝くんの前から姿を消した。

自分の知らないところで、自分の撒いた種が花開くのは、大きな幸せだ。

「もうあいつに俺は必要ない。俺は、俺のいないところで羽ばたくあいつを見てみたい」

 

最終回のラストシーン、姿を消した坂井さんのもとに、再び是枝くんが現れる。

あの日、古びたレンタルビデオ屋で、坂井さんが是枝くんを見つけたように、今度は是枝くんが坂井さんを見つけ出す。


そして言うのだ。

かつて、坂井さんが是枝くんに言った台詞を。
今度は、是枝くんが坂井さんに言い返すのだ。

 


こんなに幸せなことがあるだろうか。
自分の育てた"子ども"が、今度は一人の"大人"として、自分に真っ向から向かってくる。
こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。

 

 

1巻の1話が、最終巻の最終話で改めて響く。
選んだ先にあるものがどんなものかはわからないけれど、でも、選ぶという行為がまずは大切で、選んだものを信じた先にはきっと何かがある。
それはきっと自分次第で、自分で自分の道を切り開いていくしかないのだ。

 

 

こんなに面白い漫画があっていいのだろうか。

 


大好きな漫画が終わってしまうのは寂しい。
でも、これは終わりではなく、新たな航海の始まりだ。


私にとっても、彼らにとっても。

 

 

 

夢中で書いていたら日付が変わって「今日」じゃなくなってしまった。

でも、昨日の続きに今日があって、今日の続きに明日があって、その中で私も彼らも生きていくのだと思う。

 

王様達のヴァイキング』は本当に最高の漫画です。ありがとう。