あいまい劇場『あくと』が最高だった話
11月27日(土) @六本木EXシアター
あいまい劇場其の壱『あくと』
を観てきた!
行ったきっかけは、演出の成河さん。
成河さんはスリル・ミーで知って、それからメルマガ会員になったんだけど、そのメルマガで送られてくる「成河からのメッセージ」が毎回なんかすごくて、「何だこの人!!?!」と思っていた。
公演の初日と千秋楽後に送られてくることが多いんだけど、作品のテーマやルーツ、自分の感じたこと考えたことなどが、短いメッセージの中に詰まっていて、成河さん絶っっっっっっっ対に演出家向きだよと思っていた。
そんな成河さんが!演出に初挑戦!
しかも最高な俳優たちに誘われて!!!!!
やった〜!成河さんの演出観た〜〜〜〜〜〜い!!!!と思って行ったら、結果的に役者さんが凄すぎて…………
役者さんってすごいな……演劇って面白いな……と思って帰ってきた。
私は、IMYの山崎育三郎さん、尾上松也さん、城田優さんは、テレビで観たことあるな〜程度でそれ以上でもそれ以下でもなかったんだけど、なんだか一気にみんな大好きになってしまった。
あとキムラ緑子さんがすっっっっごい…………。ついこの間、加藤拓也さん演出の安部公房『友達』に出てたの観たし、ドラマや映画でも何度か拝見したことあったけど、とにかくすっっっっごい…………オーラが違う……………………………。
清水美依紗さんと皆本麻帆さんは完全に初見だったけど、ものすごくチャーミングだった。あと歌!うまい!!!!
いや、言うまでもなく、歌は全員めちゃめちゃ上手い!!!!!!!
とても楽しみにして行ったら、その期待以上に本当に良かった!
あと、今回、席が二階席の後方だったから遠いかな〜と思ってたけど、傾斜がしっかりあって視界は良好。思ったより見やすかった!
以下、ネタバレとか気にせずに思ったことを思ったままに書きます。
レポというほど整ってもない感想殴り書き。
今回の舞台は、4本のオムニバス形式ということは知っていたけど、それぞれ全然違うテイストで、すごく面白かった。
でも、終わってから振り返ってみると、全部が役者の話で、彼らの物語のような気がした。
1本目は、役者本人によるアドリブの応酬。
2本目は、「自分もそちら側に行きたい」と思った男の話。
3本目は、夢を諦められない男が自分と向き合う話。
4本目は、自我を持った役たちと、役を演じる人間の話。
1本目と4本目は、ダイレクトに役と役者の関係性や、「演じる」ということについての話で、4本目を観てから1本目を振り返ると、見え方が変わって面白かった。
2本目と3本目は、全然違う設定に落とし込んであるけど、これも、演劇をやる、そして役者をやり続ける話だなと思った。
彼らだから、やる意味がある話。
彼らだから、生きるストーリー。
会場に入ると、高低差のある有機的なデザインの舞台。
両側から階段で上り下りできて、真ん中からも出入りできる感じが、めちゃめちゃシアターGロッソぽいなと思ったんだけど、特撮好きと忍ミュクラスタにしか伝わらない話かもしれない。
舞台上段には、キーボードやドラム、ベースなどの楽器が並んでいる。
開演5分前くらいに奏者さんたちが出てきて、チューニングを始めた。
……と思ったら、舞台中央奥に役者さんたちも現れてびっくりした!
奥まった部屋のような空間がぼんやり照明に照らされ、そこで役者たちが思い思いに過ごしている。
よく見えないけど、楽屋?なのか?というような雰囲気。
舞台上に、尾上松也が現れ、キーボードの女性に声をかける。
「あの〜、声出ししたいんで、音、お願いできます?」
キーボードが弾く音階に合わせて発声練習をする尾上。
そこに、なんか良い感じにドラムやベースが加わってくる。
「待て待て待て待て!俺は発声練習がしたいの!何、Jazzyな感じで入ってきてんの!?」
そんな茶番と共に、シームレスに本編が始まった。
Episode 1「朝ドラオーディション」
椅子に座る尾上。
そこに後から入ってくる城田。
二人は、朝ドラのオーディションに来たらしい。
「こういうとき、なんか気をつけることある?」
「そうだな……スマートフォンなどの音の出る機器は、電源から切っておいた方がいいぞ」
「マナーモードは?」
「ダメだ、バイブ音は意外と気になるからな。恥ずかしいぞ〜、鳴っちゃうと……」
というような調子で、観劇マナーを指南する茶番をしていると、そこにプロデューサーの山崎育三郎がやって来る。
“新人女優”のキムラミ・ドリコを引き連れて。
ちなみに字は「普通の木村に、魑魅魍魎の魅、ドリコは(T_T)を当て字でドリコと読ませる」らしい。
木村魅(T_T)でキムラミドリコ。なんじゃそれ!
プロデューサーに指示された部分の演技をする尾上と城田。
そしてそれに対して「新人なんでぇ〜〜〜わかんないんですけどぉ〜〜〜〜」と言いながら、ものすごく的確な指摘をするキムラ緑子……じゃなかった、キムラミ・ドリコ。
「新人なんでぇ〜〜、よくわかんないんですけどぉ〜〜〜〜〜〜、ここは、痛みに対する肉体的反応、それがナイフで刺されたものだという認識、そして相手を見て憎しみや怒りと言った精神的反応が初めて沸き起こるんじゃないでしょうか。それを、尾上さんはぁ、刺されてすぐ相手を認識して反応されてましたよねぇ〜、だからぁ、この人は、エスパーという解釈なんだと思いました!流石です!」
「あ、いや、あの…………すみません、もう一回やらせてもらっていいですか……」
といった調子だ。
もうめちゃめちゃ茶番。
女優がキムラ緑子さんじゃないと成り立たないところが最高。
最初は自信満々だった尾上と城田は、キムラミドリコに「勉強させてください!」と頭を下げ、プロデューサーの山崎と巻き込んで、即興のゲームが始まる。
お題の台詞を相手に言わせるゲームだ。
どうやら事前にお題が募集されていたらしい。そういう企画があるの知らなくて、めちゃめちゃ悔しかった!知ってたら私も投稿してたのに〜!
というわけで、ゲームスタート。
一人はお題を知らない状態で、後の二人が決められた台詞を相手に言わせられたら成功というルール。
最初のお題は「健闘を祈る」
お題を知らない人は城田。
おもむろに「父上!」と膝をつく尾上。それにならって山崎も「父上!」と続く。
戦に赴く兄弟が、父からの言葉を賜るという場面設定。
やや強引に「祈る」という言葉を引き出してミッション成功!
二つ目のお題は「いい湯だな」
お題を知らない人は山崎さんだった気がするけど忘れちゃった!尾上さんだったかも!
お題が発表された瞬間「楽勝よ!」と笑ったかと思うと、「ババンババンバンバン♪」と歌い始めたから笑っちゃった。
これ誰が主導だったんだろう……城田くんじゃなかった気がする……………けど忘れた……………。
とにかく、「いい湯だな♪」の部分を歌わせてクリア!
そんなこんなでわちゃわちゃとした即興劇が終了。
たぶん15分くらいかな?
稽古場の雰囲気そのまんまって感じでファンサービス感も強い。
こういう内輪ノリっぽいアドリブの応酬、役者さんのファンからしたら嬉しいだろうな〜と思いつつ、私はそこまで役者さん個々のファンではないので、一方で「どうしよう、2時間これだとちょっとキツイ……」と思っていたら、次のお話は全然違って、良い意味で驚かされた。
舞台は暗転し、音楽が始まり、一人の女性がスポットライトで照らされる。
歌い出した女性がカッコよすぎて……歌詞も良すぎて…………一気に惹き込まれた。
歌詞ちゃんと知りたいなと思ったけどパンフレットにも載ってなかったので、後日どこかで公開してもらえないかな……すごく良かった…………。
朗々と歌い上げた女性が去り、照明が変わる。
四角く区切られた照明のエリアに、3人の男が横たわり、次のお話が始まった。
Episode 2「Lateral thinking」
一本目とは違い、ガチガチのシリアス。
役者たちも、役者ではなく役としてそこにいることがすぐにわかる。
舞台上に満ちる緊張感と切実さが、観客を一気に違う世界へと連れて行く。
薬で眠らされて連れてこられた3人の男。
ポケットには、謎のメモ。
そのメモの暗号を時間内に解かないと、部屋からは出られない。
質問をすると、無機質な声が「はい」「いいえ」とだけ答える。
「おい、あと何分だ!?」
「落ち着け、はいかいいえで答えられるように聞かないと……残り時間は1時間以上ですか?」
「いいえ」
「では、30分程度ですか?」
「いいえ」
「15分程度ですか?」
「はい」
「…………まじかよ、やばいぞ!!!!」
こうして男たちは、はい/いいえで答えられる質問を繰り返して真実に近づいていく水平思考クイズで、部屋からの脱出を目指すことになる。
場を取り仕切るのは、冷静な清水(山崎育三郎)。
岩崎(尾上松也)は短気で直情的だが、彼の口走った言葉がヒントになる。
そしてもう一人は山下(城田優)。猫背で自信なさげな男だが、水平思考クイズのシステムや、首に仕込まれた謎の装置に最初に気がついたのは彼だ。
そして、お互いにアイディアを出し合いながら、少しずつ真実に近づいていく。
メモに書かれた暗号は、彼らの生まれた年を表していた。
ここにいる全員、同い年。
そして、全員が同じ小学校で過ごしたことがある。
「ちょっと待て、お前、山下……って…………」
「もう、遅いよ〜」
階段の上で山下が振り向く。
照明が変わり、時が止まる。
青白く照らされた山下は語り出す。
転校して行った小学校で、リーダー的存在だった清水と岩崎。
当時、水平思考クイズが流行っていて、彼らはいつもそれを出題する側だった。
ゲームスタートが告げられると、周りの子どもたちは必死で捻り出した質問を清水と岩崎に投げかけるが、真実を知っているのは二人だけ。
二人はにやにやしながら「はい、あと1分〜!」と言う。
「はい、あと1分〜!わからなかったら、お前たちは死ぬ!」
「かっ……こよかった。僕もそちら側になりたかった」
そう語る山下の手の中には、押すと「はい」「いいえ」と発するボタンが握られている。
そして、首に仕込まれた電流のスイッチも。
城田優くんが、サイコパスな犯人という展開が最高すぎて、「え〜〜〜〜、これ書いたのだれ〜〜〜?????」と思って、あとでパンフレット読んだら、書いたの城田優くん本人だったからびっくりした。
でも、書いたときキャスティングは違う人を想定していて、自分がやるつもりはなかったらしい。
城田優くん本人にこの役をやらせた人たち天才だよ、ありがとう……!!!!
水平思考クイズは通称「ウミガメのスープ」と呼ばれていて、城田優くんがこのゲームが好きなことは知ってたから、劇中で出てきたときはテンション上がった。
ちなみになぜ私がそれを知っているかというと、城田優くんはクイズ法人カプリティオの代表の古川洋平さんと仲が良くて、YouTubeでコラボとかもしてたから。カプリティオはウミガメのスープのゲームを作ったり、動画たくさん出したりしてるから、興味ある人はチェックしてみてほしい。
そしてこの「自分もそちら側に行きたい」という欲求は、俳優の中にあるものなのかもしれないなとも思った。
脚本があって、演出があって、俳優は役を演じる。
俳優は脚本を必死で読んで自分なりの答えを探すが、演出家に「そうじゃないんだよ」と言われたら、やり直しだ。
演出家の「今の感じ良かった」と「それは違う」を頼りに、あるのかないのかもわからない一つの真実を求め続けるしかない。
脚本家や演出家は、「そちら側」の人間だ。
IMYの3人、そして成河さんは、長年俳優をやってきて、今、自らクリエイションする側に回って、この企画を立ち上げた。
中でも城田優くんは、脚本を書くこともしている。
物語そのものも面白かったけど、この物語が役者本人の内から生まれてきてることもすごく面白かった。
舞台上では、時が戻る。
清水と岩崎は、山下に懇願する。
でも、山下はボタンを押し、彼らは電撃に打たれ、
……途端に賑やかな曲と共に二人の女性が現れて歌って踊り出す。
幕間だ。
Episode 3「1996年の鳥山 明」
交錯する光の筋の中に、三人の男の姿が浮かび上がる。
三人ともあくせくと働いていて、なんだか少し疲れて見える。
居酒屋で相まみえる三人の男と、一人の女。
アルバイトをしながら漫画家を目指す酒井(尾上)。
漫画家を目指していたがやめて会社員になった高井(山崎)。
漫画家を目指していたがやめてタクシー運転手になった大黒(城田)。
丸川(皆本)は、酒井に連れられてここに来たが、紹介された高井とどうこうなる気は全くなく、酒を飲んで管を巻いている。
元々は、ともに漫画家を目指していた三人の男だが、今まだ漫画を続けているのは酒井だけだ。
でもその酒井も、最近は漫画家を目指すのをやめようと考えている。
酒井の漫画は、一回だけ雑誌に載ったことがある。
ドラゴンボールのパクリのような読み切りだ。
「パクリじゃない!オマージュだ!」
「でも絵柄も話も丸パクリだろ」
「ま、丸オマージュだよ!!!!」
酒井は熱く語り出す。
11歳のクリスマスイブに、北海道帯広の自分の家の前で出会った鳥山明先生との思い出を。
肩に雪を積もらせた鳥山明先生は、未発表の漫画を読ませてくれて、「漫画家になりなさい。僕みたいな漫画家に」と言ってくれた。
だから、酒井は鳥山明先生のような漫画家になりたくて、夢を追いかけている。
漫画をやめてしまった友人たち。
中途採用で、しんどい思いをしながら、でも堅実に働いている友人たち。
酒井には彼らが少し羨ましく見える。
見下していたはずの生き方が、羨ましく見える。
高井と大黒にとっては、酒井が夢を追いかけていることは希望だ。
諦めてしまった自分たちにとって、唯一の希望だ。
でも酒井は、そうは思えない。
居酒屋を出て、雨宿りをしながら丸川と話す酒井。
このまま二人でホテルに行くのかと思っていたところに、出てった女房が子どもを連れてやってくる。
「えっ、先輩、奥さんいたんですか!?」
丸川ちゃんの叫びももっともだ。しかも子どもめちゃめちゃ大きいし……(黄色い帽子を被ってランドセルを背負った山崎育三郎)
「漫画家をやめて働かないなら出ていく」と、女房はそう言った。
そして去り際に、一枚のパンフレットを残していく。
1996年12月24日に行われた鳥山明の講演会のパンフレットだ。
会場は、愛知県。
自分が鳥山明に出会ったはずの日、鳥山明は愛知県で講演会をしていた。
じゃあ、あれは、俺は…………
酒井は走り出す。
土砂降りの雨の中を、必死に走る。
ここで歌舞伎のツケ打ちが出てきて最高だった。
落ちまくる雷を右へ左へ避けながら、酒井は走って、走って、走って、走って………………
目を覚ますと、そこは全然違う場所だった。
あたりに牛の鳴き声が響く、なんだか懐かしい光景。
観客はすぐに気がつく、ここは1996年12月24日の北海道帯広だと。
そして、現れた少年は子供時代の酒井だと。
酒井は、学校でいじめられていると話す少年を励ます。
「そうだ!漫画を書け!漫画、好きか?」
「……うん、好き!」
「漫画はいいぞぉ!紙とペンがあれば書ける!」
「おじさん、漫画家なの?」
「……そうだよ、これがおじさんの書いた漫画だ」
そうして酒井は少年に、子供時代の自分に、読み切りが載った漫画雑誌を見せる。
ドラゴンボールそっくりの読み切りが載った漫画雑誌を。
酒井が夢を抱くきっかけになった「鳥山明」は、自分だった。
少年時代の自分にかけた言葉は、そのまま今の自分に向けた言葉になる。
酒井は成長する。
中学生になり、高校生になり、大学生になり、高井や大黒と出会う。
そして、みんなに1996年12月24日に出会った鳥山明先生の話をする。
「鳥山明先生に、魔法をかけられたんだ」と言われた酒井は、はっとして呟く。
「魔法……か……。俺、呪いだと思ってたよ…………」
自分を夢へと向かわせた鳥山明はいなかった。
でも、鳥山明になろうとして漫画家を目指しても、自分は絶対に鳥山明にはなれない。
だって、自分は自分だから。
誰かみたいにはなれたとしても、その誰かそのものになることはてきないから。
オマージュを繰り返すことしかできないから。
でも、「誰かにとっての鳥山明」に、自分がなることはできる。
自分が鳥山明先生に憧れ、励まされたように、自分が他の誰かの憧れの対象となり、他の誰かを励ますことはできる。
「あの人みたいになりたい」という気持ちは、時には夢への原動力になり、時には自分を縛る呪いにもなる。
それを握りしめて走るしかない。
そういう話なのかなと思った。
あと、全然関係ないけど、私はこの話の丸川ちゃんが大好き。
世界観ぶっ壊しつつ物語を突き進められるところ最高。
俳優が舞台上からいなくなり、演者たちがセッションを始める。
ソロパートが次々と移り変わり、そして物語は続いていく。
Episode 4「EXシアターのジャン・ヴァルジャン」
舞台上手の、赤い旗が照らされる。
そして現れるヨーロッパ風の服を来た男。
そして男は語り出す。
なぜ自分は同じ物語を、同じ過ちを繰り返すのかと。
なぜ自分はいけないとわかっていながらパンを盗んでしまうのかと。
名乗りはしないが、レ・ミゼラブルのジャン・ヴァルジャンだと、すぐにわかった。
次に現れるのは、仮面をつけた男…………彼もはっきりと名乗りはしないが、明らかにオペラ座の怪人だ。
彼の立つ舞台中央は、シャンデリアが輝く。
そして、ライオンのたてがみをつけた半裸の男の登場で、すべてが決定的になる。
舞台下手に浮かび上がるキリンのシルエット。
彼らは超有名ミュージカルの主人公たちだ。
客席にはかなり早い段階から、くすくすと忍び笑いが漏れていて、観客たちのミュージカルにたいする造詣の深さが窺われる。
そして、彼らの登場により、舞台装置が、レ・ミゼラブル、オペラ座の怪人、ライオン・キングのモチーフを組み合わせて作られていることに気がつく。
彼らは自問する。
自分たちはどういう存在なのかと。
なぜ毎日同じ物語を、同じ過ちを、同じ2時間を繰り返すのかと。
しかも日によっては一日に2回も!!!!
最後に登場するのは、赤い髪に、赤いワンピースの少女。
彼らから「アニキ」と呼ばれた彼女も、外の世界に飛び出したいと望む。
そして四人は、ステージを降りる。
文字通り客席に降り立ち、六本木の街へと駆け出す!
舞台上では並行して、別の物語も進んでいる。
ミュージカルでジャン・ヴァルジャンを演じている主演俳優と、その付き人。
そして付き人の妻と、その友人。
山崎育三郎、尾上松也、城田優、キムラ緑子の4人は、ミュージカルの登場人物と、現実世界の人間とを、早着替えしながら次々と演じ分ける。
この演出がすごく良くて、観ていてすごくわくわくした。
早着替えや出ハケの工夫はもちろん、同じ役者が複数の役を、しかも階層の違う役をやっているのに、出てくるとちゃんとその"役"で凄かった。
そして、この4人……いや、8人が出会い、関わり、物語が動いていく。
役と役者と物語と人生と…………
役者は、役になりきり、物語の中で役の人生を生きる。
舞台上にいるのは、役か?役者か?
この物語は、この人生は、この時間は誰のものだ?
役者は役の気持ちを考え、役になろうとするが、本当に役の気持ちを考えたら、同じ過ちを何度も繰り返すことはしないんじゃないか?
劇場の外では、みんなが台本のない世界を生きている。
台本がないということは、みんなアドリブをやっているということか。
アドリブは、相手との信頼関係がないとできないことなのに。
この言葉が、私には一番刺さった。
そもそもこのオムニバス作品の冒頭は、アドリブの応酬だった。
その最初からのこのラスト!!!!脚本家の福原充則さん天才か!!?!
役と役者の境界線についても、すごく興味のあるテーマだったからすごく面白かった。
私は自分も少しだけ演劇をやっていて、役者として役を演じたこともあるし、役者をやっている仲間たちを観に行くこともある。
自分が演じるときは、役としての感情の動きと、役者としての冷静さのバランスにいつも悩む。
そして観客として観に行くときは、できれば役者ではなく役を観に行きたいと思っている。
これは、知り合いの劇団を観に行くときも、あいまい劇場みたいなプロの商業演劇を観に行くときも同じだ。
勝手な憶測だけど、山崎育三郎さんも尾上松也さんも城田優さんも、「山崎育三郎を」「尾上松也を」「城田優を」観に来るお客さんが多いんじゃないかと思う。
彼らは舞台上で別人として生きていても。
今回のあいまい劇場は、役と役者の境界線が曖昧で、でもその曖昧さも含めてとても面白くて、全部が彼らの話で、私の話で、演劇の話で、物語の話で、フィクションの話だけどノンフィクションで、すごくすごく良かった。
幕が降りた瞬間、自然と「立ち上がりたい!」と思った。
演劇って面白いな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜と心の底から思えて嬉しくなったからだ。
実際は、カーテンコールで周りが立ち始めてからしか立てなかった臆病者だけど、ほんとに……ほんとに……良かった……。
私はIMYの3人のことを、なんとなくしか知らなかったけど、3人ともすごく魅力的で、実力もある俳優さんだとわかったから、これからたくさん観たいなと思った。
そういえば唯一よくわからなかったのは、ヒュー・ジャックマンなんですけど、あれは何だったんですか?
尾上松也さんの持ちネタにああいうのがあるの?それともヒュー・ジャックマンのジャは、ジャン・ヴァルジャンのジャなの?教えて有識者!
そして肝心の成河さんの演出については、これも正直よくわからなかった。
ものすごく面白かったんだけど、これが脚本の力なのか、役者の力なのか、それとも演出の力なのか、わからなかったからだ。
台詞の節々に、「成河さんこういうこと考えてそ〜〜〜〜!!!!」という演劇論が垣間見えたけど、脚本を書いたのは福原充則さんと城田優くんだし、舞台装置とか場面転換さいこ〜〜〜〜〜〜と思ったけど、それもどこまで脚本に指定されてて、どこが演出つけたところなのかわからないし、演技も役者さんが考えたのか成河さんの演出かわからないし……。
つまり何が言いたいかというと、「成河さんの演出あるある〜!」が言えるくらい、もっといろんなお芝居の演出どんどんやってください!!!!!!!!!!
まじで今回、成河さんを演出に誘った山崎育三郎さんになんてお礼を言ったらいいかわからない!
私にわかるのは、成河さんはもっと演出やった方がいいってことだけだ!!!!!!!!
そしてあわよくば成河さん自身も出演してほしい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!
演劇って最高だし、もっと観たいよ。
終わります。
[2021/12/04 23:30頃追記]
「役者さんの演技がめちゃめちゃ良かった!」と言いつつ、個人の演技に対して全然言及してなかったので、ちょっとだけ追記!
あいまいあくとを観に行く前のイメージと、観たあとのイメージ!
山崎育三郎さん
観る前→品の良い歌うまお兄さん。足が長い。
観た後→Episode2と3の、ちょっと周り見下してる系の役のイメージはあったけど、Episode1と4の周りにへこへこしてる役のイメージは全然なかった!けど、より役者に近く思えた1本目と4本目でそういう役回りだったってことは、山崎さんが演じるの得意なのは自信家クール系で、素に近い引き出しにあるのが下っ端へこへこ系なんだろうか〜〜〜〜〜〜面白い〜〜〜〜!!!!
周りを見て調整するような役回りがすごく上手。その目線のやり方が、上からだと自信家クール系で、下からだと下っ端へこへこ系になるんだな〜!
あと歌がシンプルにめちゃ上手い。説得力がすごい。
そして足が長いだけでなく顔が小さくて等身おばけだった。
尾上松也さん
観る前→梨園の貴公子。なぜか粗野なイメージかあった。
観た後→Episode2と3の直情的な役はなんとなく事前のイメージ通りだったんだけど、Episode3に垣間見えた弱さとか情けなさとか、Episode4のジャンや付き人の妻の苦悩とか、そういう繊細な表現がすごく良くて、傷つきやすさと大胆さが同居してる感じが本人の雰囲気とも合ってて、毎回そのキャラクターが大好きになってしまった。
付き人の妻役のときは、本当に女性に見えて凄かった。歌舞伎で女形をやることもあるんだろうか?
あと全然知らなかったんですけど、歌うまいんですね!!?!
観る前と後で一番イメージが変わった人かもしれない。
城田優くん
観る前→イケメン俳優。一時期、漫画原作作品でよく見かけた。
観た後→Episode1〜4ですべて違う印象の役をやっていたのが凄かった。こんなに多彩な俳優さんだったんですね……。なんとなく自分の魅力をよくわかってる人なんだなと感じた。
顔のパーツがはっきりしてるからか、ちょっとした表情の変化も魅力的で目を引く。
あとあなたも歌めちゃめちゃ上手いな!!?!テレビドラマでしか見たことなかったから知らなかった!
いろんな役ができて、歌も歌えて、脚本も書けるって何なんですか……すごい…………。
キムラ緑子さん
観る前→なんか有名な人。
観た後→あらゆることにものすごく納得した。本当に存在感がすごい。でも、作品の空気を壊さない。すごい。
皆本麻帆さん
観る前→知らない人だな?
観た後→ウルトラチャーミング!!!!丸川ちゃん大好き!!!!
清水美依紗さん
観る前→知らない人だな?
観た後→歌うっま!!!!!!かっこい〜!!!!!!!!
以上、追記おわり!
あっ、あと、ヒュー・ジャックマンについてコメントくれた方、ありがとうございました!
ウルヴァリンはわかったけど、どうしてこの作品にヒュー・ジャックマンが出てくるのかわからなくてもやもやしてたので、すっきりしました!
今度こそ本当に終わり!