エモーショナルの向こう側

思いの丈をぶつけに来ます

舞台『ダブル』が、演劇好きの演劇好きによる演劇好きのための演劇で最高だった話


4月2日(日)@紀伊國屋ホール
『ダブル』

原作:野田彩子
脚本:青木豪
演出:中屋敷法仁
出演:和田雅成、玉置玲央、井澤勇貴、護あさな、牧浦乙葵、永島敬三

を観てきた。

演劇漫画が、原作にも舞台として登場した紀伊國屋ホールで舞台化するという、メタな作品。
私は元々原作のファンで早く舞台化しないかな〜と思っていたから発表の時点で嬉しくて嬉しくて、その上、脚本も演出もキャストも絶対に間違いない布陣だったから、もう期待値エベレストくらいで行ったけど、本当に本当に良かった!
毎回、原作最新話更新のたびに屍になってるおたくだから、舞台でも殺されるかもしれんと思ってたけど、「演劇大好き!ダブル大好き!みーんな好き〜〜〜〜〜!!!!」って気持ちでいっぱいになって帰ってきたので、安心して観ていいやつです。


以下、ネタバレありの感想書き散らし。
レポにもならないような個人的な覚え書きと解釈の整理。

 

 


紀伊國屋に到着した時点で、至る所に貼ってあるポスターにテンションが上がる。

f:id:maguromgmg:20230402232733j:image

一階のガラスケースに今回のポスターと野田彩子先生の描いた『初級』のポスターが並んで漫画原稿と一緒に展示されててテンションが上がる。

f:id:maguromgmg:20230402232824j:image


4階に上がるとホールの床が漫画の通りでテンションが上がる。
さらに今回の出演者の写真が並んでいて、漫画原稿もたくさん展示されていてテンションが上がる。


f:id:maguromgmg:20230402232851j:image
f:id:maguromgmg:20230402232809j:image

 

もう観る前からテンション上がりっぱなし。

 

初日に観に行った友人からの情報で、開幕が『熱海殺人事件』だという話は聞いていたので、事前に『熱海』の冒頭だけ戯曲を読んでから行った。(※webで無料公開されてます)

 

噂通り、白鳥の湖と共に幕が上がる。
白い壁の、ロフト付きの1LDKらしき部屋。そして奥から現れる多家良と友仁。彼らが運んでいるのはぶら下がり健康器。

多家良の新居への引っ越しだ!!!!!!!!!!

なるほどここから始まるのか〜というのが最初の感想だった。
原作のどこからどこまでをやるのかが一番気になってたから、多家良のひとつの転換点である引っ越しから始まっているのは納得がいく。

白鳥の湖は、多家良の携帯の着信音だ。
すかさず友仁が「『熱海』かよ」とツッコミを入れる。

つか作品を知ってる観客が「紀伊國屋ホール白鳥の湖で幕が上がるって『熱海』かよ」と思っていると、舞台上で「『熱海』かよ」と言ってくれる気持ちよさ。

あとその直後に多家良と友仁が「え?」「え?」「え?」「え?」と一切の間なしに重ねるの大好きありがとう中屋敷法仁〜!!!!
そもそも、大の大人が二人してぶら下がり健康器を運んでいるだけで面白くて、幸せ最高ありがとうマジでみたいな気持ちになる。

 

和田雅成さんの多家良は顔がとにかく可愛い。「んっ?」てちょっと顔を突き出して聞くのがとくに可愛い。

玉置玲央さんの友仁は、なんかもう友仁だった。あれは友仁。あと声がめちゃめちゃ気持ちよく響いて、耳が幸せだった。口が大きくて喉が広い感じがしてとても良い。
和田さんの声がダメなわけではないんだけど、玉置玲央の響きのある発声を浴びてしまうと「がんばって!」と思ってしまう。普通に話してるときは気にならないけど、大きな声を張り上げるときと、小さな声で話すときに、玉置玲央さんが凄すぎて……

身体の質感は、個人的な好みだと和田多家良と玉置友仁が逆だとよかったな〜と思った。
和田多家良はちょっと猫背で身体が板っぽくて、玉置友仁は柔らかくよく動いたんだけど、私の中では友仁さんが板っぽい直線的な肉体で、多家良がよく動く柔軟な肉体のイメージだった。

 

舞台ダブルは、多家良の部屋にいろいろな人が訪れることで話が動いていく。
最初にやって来るのは、劇団の先輩である飯谷だ。

正直、キャスト発表されたときは「飯谷って誰だよ!」と思っていた。原作漫画には本当にちらっとしか出てこないし、野田彩子先生もそう言ってたから許してほしい。

さて、その飯谷だが、完全に永島敬三だった。
もう登場した瞬間から永島敬三。顔も動きも「ひゃくまんえん!」の言い方も永島敬三。もうただの永島敬三。ていうか、「小劇場にいる役者」の概念の具現化。
玉置と永島のいる劇団はそれはもう柿喰う客なのよ……劇団英雄=柿喰う客説。

そしてこの飯谷がな〜んもわかってないキャラのおかげで、「飯谷に説明する」というテイで、ここまでのあらすじが観客に示される。しかもそれがコミカルでテンポ良く、観てて気持ちいい。

 

さらに友仁が買い出しに出て行って、多家良と飯谷の二人になったところに、轟九十九が来る。

井澤勇貴さんの轟九十九は、目元の濃さとゲーノー人っぽさがめちゃめちゃ良かった。

そして多家良も出て行き、なんとなく気まずくなる九十九と飯谷〜!こういう絡みない人が残されて変な空気になるのも大好き〜!


そのあと登場する冷田さんや愛姫ちゃんも、原作イメージまんまで最高。
護あさなさんの冷田さんは凛とした佇まいと、声がとても良い。きりっとしてるのに怖さはなくて、多家良のために尽力してくれてるのが伝わる。
牧浦乙葵さんの愛姫ちゃんは髪の毛さらさらでお顔が可愛くて元アイドルっていう説得力がありすぎた。ちょっとした仕草も、あざとすぎず、でもチャーミングで、とっても可愛い。後から調べたら、牧浦さん自身もアイドルとして芸能界に入って今は舞台で活動してる方だった。

 

冒頭から好きな演劇が詰まりすぎてて最高。
出てくるキャストも原作のイメージ通りで魅力的で最高。
そして皆ずーーーーーっと演劇の話をしてるのも最高。


とくに友仁さんが戯曲の名前をばんばん出してくる。当たり前のように周囲もそれに反応する。
そういえば冒頭の熱海の話だけど、多家良、つかこうへい知ってるんだな!?

今やってる芝居のワンシーンをその場で演じたりもする。
そういうとき「ちょっとムーディにするわ」って部屋の電気のスイッチで照明切り替えるのずるくない?


観客に理解させる気があるのかないのかわからないような演劇ネタが連発されるけど、そういう自分たちにしかわからない話をしまくるのも演劇人あるあるで観てて楽しい。

 

たぶん知らなくても楽しめるんだけど、私が観といて良かったと思ったのは、やっぱり『初級革命講座 飛龍伝』だった。
私は今年の2月にスズナリでやった『初級』を観たんだけど、昨年7月に紀伊國屋ホールでやった『初級』を観た人も多いと思う。

漫画ダブルと『初級』については、詳しい人がめちゃめちゃ丁寧なブログを書いてくださっているので、これを読むとかなり理解が深まると思う。

多家良と九十九と愛姫ちゃんが『初級』をやると決まったとき、冒頭のショーを丸々やるんだけど、本当に『初級』そのまんまでちょっと感動した。
ダブルの原作で『初級』の幕が上がったら、このキャストで『初級』やりませんか? 普通に井澤勇貴演ずる轟九十九演ずる山崎の『初級』も観たいんですが???

 


舞台のストーリーは、多家良の引っ越しから始まり、声の喪失と再獲得を経て、『初級』の稽古中で終わる。

原作漫画では多家良と友仁が『初級』を一緒にやるのが大きな転機になっていたけど、舞台ダブルではシチュエーションが多家良の部屋という特性上、『初級』の稽古場は描かれず、華江さんや黒津監督も名前しか出てこない。なんとなく「ダブル読んでるなら『初級』はわかれ!感じるだろ、このヤバさ!」みたいな何かもあった気がする。
でもたぶん、原作の漫画ダブルか、つか作品か、どちらか片方に触れてれば大丈夫だと思う。演劇好きが演劇好きのために作った演劇好きの舞台って感じ。

 

舞台ダブルの、舞台ならではの演出はだいたい好きだったんだけど、個人的にプロジェクションマッピングはなくても良かったのではないかという気がする。
紗幕に映像を写すのはいいとして、舞台装置の壁に絵を写す方。それがなくても役者の凄みは役者からちゃんと伝わるし、もうちょっと俳優を信じて任せてもよかったんじゃないかな〜という印象。

あと私は、原作の多家良が失った声を取り戻すところがとても好きだから、そこの描き方はちょっと不満だった。
語りながら取り戻すのは良かったけど、「あーえーいーうーえーおーあーおー」ってしながら歩くのやってほしかったな〜。
いっそのこと、舞台を降りて客席を彷徨ったりしてもよかったんじゃないだろうか。ロフトでの一人語りからアパートを飛び出すところ、舞台上の部屋の約束を破ってたから、それなら客席降りも許されたし、外を歩きながら声と共に自分自身を取り戻すっていうのが肝だと思うから、「“外”を歩く」っていうのをシーンとして見せてほしかった。


観終わってから気になったのは、「水」の扱いについて。

とくに顕著だったのは、愛姫ちゃんが多家良の部屋に訪れるシーンと、友仁が多家良の部屋に訪れるシーンの対比。

声を失った多家良の部屋に来た愛姫は、電気ケトルで湯を沸かして二人分のコーヒーを用意し、自分だけそれを飲む。
そんな愛姫に多家良は頬を寄せ、愛姫は多家良の手を引いて二人はロフトに上がる。
(余談だが、私は原作のこの場面の、幼い二匹の動物がじゃれ合っているような無邪気さが大好きだから、舞台でもこの二人の睦み合いがいやらしさのない暖かいもので嬉しかった)

そして終盤、『初級』の稽古から逃げ出して戻ってきた多家良の部屋に訪れた友仁も、電気ケトルで湯を沸かして、焼酎のお湯割りを作る。


逃げて、逃げて、もがいている多家良。
電気ケトルで湯を沸かす。
二人の会話の密度が高まったところで湯が湧く。
二人分の飲み物を用意する。
でも、多家良はそれに口をつけない。
かわりに多家良は手を伸ばす。

愛姫はそんな多家良を受け入れる。
友仁は、受け入れない。

 

思えばこの舞台は、皆よく何かを飲んでいた。

愛姫ちゃんが「この部屋、乾燥してるね。加湿器とかないの?」というところは原作にもあるけど、もしかしてここを起点に戯曲にするとき、多家良の「渇き」を表現した?

そういえば多家良が声を失って、無言劇ならできるのではという話題になったときに、友仁が熱く語る戯曲「水の駅」は、舞台の真ん中に水道があって、そこに次々と人が現れる芝居らしい。

(戯曲デジタルアーカイブhttps://playtextdigitalarchive.com/drama/detail/532 )

『初級』の山崎役の交代について九十九と話しながら、友仁はベランダの植物に水をやっている。九十九が最後に「頼むわ」と言い残して部屋を去ると、突然、雨が降ってくる。
友仁は「水、やらなくてよかったな」と呟き、そのまま雨音の中で『初級』の山崎の台詞を読む。

友仁の「水やり」は、多家良を見出して身の回りの世話をしながら演劇をやっていたことの暗喩か?
降り出した雨は、『初級』を多家良と友仁が演じることによって、何かが変わることを示している?

『初級』の中で、山崎が小夜子と出会うのは雨の日だ。
降りしきる雨の音で、それを連想したのは私だけではないと思う。

 

でも、友仁は多家良を受け入れない。

友仁の手を握り、ずっと抱えていた「秘密」を、言うなれば「公然の秘密」を口にしようとする多家良を、友仁は拒絶する。言葉を遮り、唇を塞ぎ、それでも溢れ出る多家良の想いを、友仁は決して受け入れない。
絵面だけ見たら濃厚なキスシーンなのに、明確な「拒絶」だとわかって哀しい。


ただ、一緒に「演劇」をやりたいだけなのに、どうしてこんなにうまくいかないんだろう。
でも、この二人は「演劇」でしか繋がれないし、わかり合えない。

 

ラストシーン、二人で炬燵に並んで入り、多家良は言う。
「どうしたら世界一の役者になれるんだろう?」

友仁は答える。
「人の気持ちがわかるようになればいいんじゃないか?」


「俺、無理だよ、友仁さんの気持ちわかんないもん」
「俺だってお前の気持ちがわからないよ」
「わかってたじゃん、俺の気持ち」
「そりゃ一部はわかっても、全部は無理だよ」


そして多家良は呟く。
「世界一の役者になりたい」

 

…………この文脈で言うと、意味合いが変わってこないか?

この話の流れだと、多家良の言う「世界一の役者になりたい」は、「友仁さんの気持ちがわかるようになりたい」とイコールにならないか?

でも、原作の「一緒に世界一の役者を目指そう」っていうのも、ある意味「俺はお前を理解し、お前は俺を理解し、みんなにそれをわからせてやろうぜ」ってことだから、それでいいのか?

 

そんなことを思ってラストは情緒がぐちゃぐちゃになった。

 

あと曲!
多家良がサブスクで適当に選んだプレイリストが「川沿いを散歩」だったけど、原作でこのくだりのあとに二人が川沿いを歩く話あるじゃないですか……そういうこと????

 

観終わったあと、いろいろ話したい気持ちでいっぱいになったけど、相変わらずぼっち観劇だった私はすべてをここに記して寝る。

思い出したらまた書き足します。

 

【2023/04/03追記】

舞台ダブルを観てから一晩たって、パンフも読んで、いろいろ思い出したから、もうちょっと書く。

私が観に行った4/2(日)夜の回、和田雅成さん演ずる多家良が『初級』の冒頭をやるシーンで、熊田の台詞を噛んでしまった。

それ自体は観ながら「あ、噛んで言い直した」とすぐ気づいたし、まあそういうこともあるよな残念だけど……と思ってたけど、印象的だったのはそのあと。

井澤勇貴さん演ずる九十九が、それを弄った。
「噛んだとこ、もっかいやるか?」

和田雅成さん、というか多家良は「あ〜〜〜〜〜〜噛んじゃった……友仁さんの前で〜〜〜〜〜!」と呻いて両手で顔を覆う。
周囲は笑って「まあまあ、本番じゃないから!」と慰める。

いや、本番なんだけど!舞台ダブルは本番なんだけど! でもそのときの空気が本当に自然で、「役者」ではなくて「役」のままで、それが本当に良かった。

本番中に役者がアドリブを挟むことは珍しくないけど、私はその瞬間に「役」でなくなると一気に冷めてしまう。 舞台ダブルはそんなことなかった。むしろ「噛んだ」という事実をそのまま受け止めて会話に反映させる自然さがそこにあって、私はここで「あ、みんな“本物”だ。板の上で生きてるんだ」と思った。

 

人は誰もが役者だとシェイクスピアは言った。

舞台上の登場人物たちは板の上でしか生きられないが、役者という生き物もまた、板の上でしか生きられない。
「役」なのか「役者」なのかを超えて、舞台上にいる肉体を伴った彼らが、そこに生きてる感覚がとても良かった。

 

パンフを読んでも、俳優たちが演劇を愛してるのが伝わってきて胸がいっぱいになった。
パンフは写真多めだけど、役者さんの個人コメントが全員同じ分量(1ページ分)載ってて嬉しい。もちろん写真も全部めちゃめちゃ良い。

 

最後に、本編とあんまり関係ないけど忘れたくないことだけ、メモしておく。

・飯谷が本当に良い。中盤には飯谷が現れるだけで笑いが起きていた。あとマジでこういう人は演劇業界にいる。
・九十九さんが「どうせ俺らは福神漬」というシーンで赤い上着を着てたから、ちょっと面白かった。
・どこのシーンか忘れたけど、多家良が突然大きな声を出すところがあって、それがめちゃめちゃ多家良で好きだった。
・愛姫ちゃんの初登場シーン、廊下から聞こえる声だけでドキドキしちゃった。
・小道具忘れて手刀で続けた話に触れられた友仁さんが「わーーーーーーーーー!!!!!!!!」って突然大声出すの超良かったし、そのあとの奇行にもめちゃめちゃ笑った。
・『初級』の台本を二人で読んでる多家良と友仁の空気を読んで、そっとトイレの戸を閉める轟九十九。
・公式のwebアンケートで「印象に残ったシーン」を聞かれて、ものすごく迷ったけど私は、友仁が多家良に「お前は俺とお前は俺とセックスがしたくて一緒にいたのか? 俺に愛してほしくて芝居を始めたのか?」と問うシーンを選んだ。

【追記おわり】

 


舞台ダブルは配信もある!!!!
みんなで観て「演劇楽しい最高」を浴びよう!!!!!!!!!!!

■配信サイト:streaming+
https://eplus.jp/st-double/
 
■販売価格:3,800円(税込)
 ※ライブ配信アーカイブ配信付

■2023年4月9日(日)18:00公演
見逃し配信期間:~4月15日(土)23:59
販売期間:2023年3月30日(木)18:00~4月15日(土)20:59


おわり。