エモーショナルの向こう側

思いの丈をぶつけに来ます

ノラ『来来来来来』に満ちていた何かの話

 

9月7日@THEATRE E9 KYOTO
ノラ 第二回本公演『来来来来来』

【脚本】本谷有希子
【演出】しおと、ひかり
【出演】星元裕月、村井萌、丹下真寿美、中村彩乃、土肥希理子、延命聡子、アイウエあおい


を観てきた!


観劇のきっかけは出演者の中村彩乃と土肥希理子。
二人は京都出身の俳優で、一時期は同じ学生劇団で活動していて、今も精力的にいろんなお芝居に出演してるんだけど、学生時代から今までたぶん一回も共演したことがなかった。
私は二人のファンで、それぞれの活動を追いながらずっと「共演してほしいな〜」と思ってたから、今回ようやく!!!!念願の!!!!初共演!!!!しかも本谷有希子脚本!!!!!!!ということで大喜びで観に行った。

本谷有希子作品も、小説では読んだことあったけど、生で観るのは初めて。


結論から言うと、ものすごいエネルギーに満ちたお芝居で、意味不明なのに妙に惹き込まれて、めちゃめちゃ良かった。


以下、ネタバレありの覚え書き。
個人的な感想メモ。

 

終演後にデジタルパンフレットを購入したけど、自分の感想まとめてから読もうと思ってまだ開いてないです。

 

 

舞台上には背の高いフェンスがたくさんと、中央に四角い箱がひとつ。
フェンスは自由自在に動き、様々なシーンを形作る。
四角い箱は、あるときは麩を揚げるフライヤーに、あるときは食卓に、あるときは棺桶に姿を変える。

全体的に無機質で閉塞感があるイメージ。
とくにキャストがフェンスに囲われると、本当に檻に入っているようで恐ろしい。

 

私はこのお芝居を、愛を求める女たちの群像劇だと思った。


主人公の蓉子(星元裕月)は、新婚1ヶ月で夫に逃げられ、狂った姑の世話を、狂いかけの小姑から押し付けられる。
明らかに大変な状況で、事態はどんどん悪化していくのに、蓉子はそれを受け入れ続ける。


誰かに褒められ、必要とされたい主人公の蓉子。

夫を愛し、次男を愛すも、両者に逃げられ、執拗な嫁いびりをする姑・光代。

母に愛されたいが愛されず歪んだ長男の暴力受けながら姑の我儘を聞き続けるが、それでも夫を捨てられない小姑・千鶴子。


自分の望む愛が得られず、でも愛されることを諦められない夏目家の女たち。
そんな壊れかけの夏目家に出入りする他の登場人物たちも、また歪んでいる。


義父に愛されたくて悶え苦しむアキ。

すべての男に愛を与える”あそこが優しい“女・ヒロ子。

学校でいじめられて夏目家の野鳥園に通うみちるは、まだきっと愛を知らない。

 

登場人物たち全員がちょっとずつ狂っていて、設定だけ見たら誰にも感情移入できないのに、観ていると全員の気持ちがわかって不思議な感覚だった。
リアリティがないのにリアルなのは、生身の人間が内包するパワーなのか? それとも役者の技量の高さか?


役者は全員ものすごい存在感だった。

蓉子役の星元裕月さんは声がめちゃめちゃ良かった。
あとお顔がとにかく端正で、横顔が美しい。
序盤のおずおずとした態度から、中盤の吹っ切れたような明るさ、そして終盤の自分自身を解放した姿への変貌が凄まじかった。

光代役の延命聡子さんもすごかった。
じろりと相手を睨みつけ、曲がった背中で足を引きずりながら歩く姿は醜悪な老婆そのもので、ものすごく怖かった。
だからこそ終盤の呆けた表情がショッキングで、蓉子とのやり取りが映える。

千鶴子役の丹下真寿美さんは、明るく無邪気な口調でさらっとおかしなことを言うのが怖い。一番わかりやすく狂っていたのは彼女かもしれない。

アキ役の土肥希理子はとにかくチャーミング。
笑うと目尻と口角がくしゃっへにゃっとするのが可愛い。
それでいて疼く身体を持て余し、身悶える様は色っぽい。
私は彼女を10代の頃から知っていて、こういう大人の女を演じるところも何度も観てきたけど、やっぱり年齢を重ねた方が魅力的に演じられる役というのはある気がして、それが今日観たアキだった。
あと全然関係ないんですけど、お手々ちいさくて可愛いな?と思いました。何だこの感想。

殺伐としたお芝居の中で、このアキと、中村彩乃演ずるヒロ子のやり取りが癒しだった。
個人的に中村彩乃のヘラヘラした役が大好きだから、ヒロ子が終始ヘラヘラしてて最高でした。
でも「嫌いな人とかいないの私」って笑うヒロ子は、自分のことが嫌いなんじゃないだろうか。
愛を欲しがる女たちの中で、このヒロ子だけが愛を与える側で、でもそれでいて一番孤独なのは彼女だったのかもしれない。

みちる役の村井萌さんは、身体つきから若さを感じた。
役者さんたちの実際の年齢を知らないけど、一番若く、幼く、健康的に見えた。
蓉子を慕いながらも痛いところを指摘する若さというか青さというか残酷さというか……彼女の言葉で蓉子は揺さぶられる。

男役のアイウエあおいさんは、ほとんどセリフのない「男」という概念の役だったけど、でもこの役にも肉体を与えるのは演出として必要だったと思う。
難しい役どころだよなぁと思っていたら、アフタートークで「中村彩乃さんが別の作品で『木』を演じるときに言われたというアドバイスを参考に、自分は『川』のつもりでいた」という話がとても面白かった。

 


物語のキーとなるのは姑の飼っている鳥たちだ。
姑が夫に愛されるために作った野鳥園。


冒頭、蓉子と千鶴子は絞めたニワトリの羽をむしっている。

光代は鳥たちを可愛がりながら、毎日「粗末にしていい命」を決めて食卓に上げる。

そんな光代を、千鶴子は糾弾する。
「お義母さんの可愛がり方は異常ですよ!SMですか?カニバリズムですか?」
そうして激昂した光代の目の前で、千鶴子はクジャクを揚げ殺す。


蓉子と夫の純愛の象徴であり、光代も大切にしていたクジャク


クジャクのオスは羽を広げて求愛する。
でも、戯曲の女たちは男からの愛を求め続けているのに、男から求愛されることはない。

作中で2回出てくるクジャクを揚げ殺すシーンは、求めても手に入らない男からの愛への脱却なのか執着なのか……

そういえば蓉子は、クジャクの尾羽根で作った髪飾りを大切に頭につけていた。クジャクの尾羽根、蓉子の求める愛の象徴。
でも、姑に頭を撫でてもらった蓉子は、髪飾りをみちるに譲る。
蓉子は自らの求める愛を手に入れたということだろうか。

 


アフタートークで、「どこを起点に役作りをしたか」という質問に対して、土肥希理子さんが「義父の前で、油に腕を突っ込み、塗りたくるシーン」だと話していた。
最初はアキがどうしてそんなことをしたかわからなかったが、稽古をしているうちに千鶴子の「あんたも油に入れば変わるわよ!」という言葉を受けてだと気がついたということも。
私は普通に観ててそういうことなんだろうなと思ってたから答え合わせができて嬉しかった。

千鶴子はクジャクを揚げ殺した後、煮えたぎる油の中に飛び込み、両足を大火傷することで夫からの優しさを手に入れた。
だが、熱されていない油に腕を突っ込んだアキは、義父からの愛を得ることができない。
蓉子が「地獄みたい」と言った、熱い油とこの家や地域に渦巻く異常さ。自分の中にある「地獄」に自ら突っ込む覚悟がないと、何も変えられないんだろうか。


同じ質問に対して、中村彩乃さんは「みちるに対して『えへへへへ〜』と返すところだ」と答えていた。
このみちるとヒロ子が生卵を飲みながら話すシーンは、個人的にこのお芝居の中で一番好きな場面かもしれない。

聞かれたくないことに対して曖昧な笑みで誤魔化すヒロ子。
中村彩乃はヒロ子を「生卵のように、外側は硬いけど殻が破られると中は脆い」と言っていた。演出のしおと、ひかりさんとのやりとりの中で「ヒロ子は身体は渡しても心は渡さない」とも言われていて、なるほど〜と思った。

終盤のカオスの中で、「お腹が痛い!死にそう!」と叫ぶ人々を見て嗚咽するヒロ子の姿がフラッシュバックする。
そういえば生卵って妊婦は食べないほうがいいんだよね。
男性をナカに迎え入れた結果、内側から身体が変わっていくことを、ヒロ子はどんなに恐ろしく思っていただろう。

 

抑圧されていた何かが決壊する瞬間が、たくさんあるお芝居だった。
不条理な会話は意味不明なのに妙に胸に響くし、殺伐としているのに可笑しくなっちゃう。
不快なはずの場面が妙に心地良い不思議。

カオスの向こうにあったラストシーンは、意外なほど静かであっけない。


女たちの苦しみは無限にあって、人間の業は計り知れないほど深く、満たされない心や身体を抱えて今日も生きていくしかない。
登場人物たちが私の分まで暴れてくれていたから、観ていて清々しかったのかもしれない。


まとまらないけど終わります!!!!