エモーショナルの向こう側

思いの丈をぶつけに来ます

あの日、あの場所、『かつて我々』

11月26日(火)@魚屋さんじゅうまる
劇団た組 居酒屋公演
『かつて我々』
作・演出◎加藤 拓也


を観てきた。
いや、「観た」というよりは、「たまたまそこに居合わせた」と行った方が近いかもしれない。


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会場についてみると、想像以上に普通の居酒屋で驚いた。
夜は通常通り居酒屋として営業しているお店を、昼間だけ借りているようだ。

中央に箸と皿が並んだテーブル。
そしてそれを囲うように壁際にチラシの置かれた椅子が並んでいる。キャパはたぶん20人前後。一目でフロア全体が見渡せるくらいの広さだ。

「チラシの置いてあるお席にお座りください」

と言われたはいいが、どこに座ればいいのかめちゃめちゃ迷った。普通の劇場だと「良い席」あるいは「自分はこのへんで観たいなという位置」がなんとなくわかるが、それが全くわからなくて戸惑った。
どこに座っても、確実に死角が生まれる。役者全員の顔を見ることはたぶんできない。そして、どこにどの役者が来て、どう展開するのかも全く読めない。


でも、始まってみたら、そんな心配は無用なものだとわかった。
冒頭でも書いたけど、「観る」というより「たまたまそこに居る」という感じの何かだったからだ。
たぶんどの席に座っても楽しめたし、どこの席からでもその席なりの面白さがあったと思う。


居酒屋で、たまたま隣になったグループの会話が気になって、つい聞き耳を立ててしまうような、そんな何かだった。
観客に向けた分かりやすい説明は一切ない。
ただただ普通に喋っている会話が聞こえてくるだけ。


あらすじを書こうにも筋があるようなないようなだったので、流れだけメモしておく。
ちなみに役名も聞き取れたり聞き取れなかったりだったので、わからないところは役者さんのお名前で代用させてもらおうと思う。

 

あ、思いっきりネタバレというか全部書いてしまっているので、これから観る人は観終わってから読んでください!何も知らずに観た方がいいと思う。きっと楽しめるから大丈夫!

 


最初にやってきたのは二人の男(越後さんと勝大さん)。
そして後からもう一人(風藤さん)も合流する。
会話の内容から推測すると、昔からの親しい仲間が、久しぶりに集まって飲むことになったらしい。

三人ともかつては演劇をやっていた。

一人は、今も舞台に立ち続けている風藤さん。
一人は、今はもう役者はやってなくて最近結婚した、タイガ(勝大さん)。
一人は、ガンになって手術をしてもうすぐ地元に帰る越後さん。


「今日だれ来るの?」
「え、こんだけ」
「こんだけ?」
「誘ったけど断られた」

そんなことを話してる内に、かつての仲間の女二人(飛鳥さんと森さん)も合流する。

「えっ、何、サプライズ!?」
「え、てかこれ何会?」

話の中心は、ガンになった越後さんだ。
そしてその周りを、タイガが引っかきまわす。

女性二人は、越後さんがガンだと知らなくて、それを越後さんもそこまで伝えようともしてないのに、タイガは無茶振りに近いやり方で言わせようとする。
というか、タイガはそれが最善だと思って、「越後さんのため」にやってるが、実際は相当デリカシーのない言動になってしまっている。

そんな風だから、言う側も言われる側もなんかちょっと変な空気になってしまう。
越後さんにとってのガンは、それはもちろん重大なことだけどあくまで個人的なことという印象なのだが、タイガはそれにみんながもっと同情して、心配して、嘆くべきだと考えている。
でも、女性陣の反応は、ドライとまではいかないが、ライトでフラットだ。
実際に聞かされた側としては、もちろん心配は心配だけど、あまり心配すると相手を心配にさせてしまう気がして、あえて淡々と受け止めるような反応になるのも、自然なことだと思う。
越後さんもそれをやさしさとして理解して受け取ってる空気があった。


重大なことをあえて軽く言うやさしさ。
相手に剥き出しの感情をぶつけないやさしさ。

そういう心の機微が理解できず、わかりやすいものを相手に求めるタイガ。


タイガはなんというか、いるよなこういう奴……という印象だ。
本人の中では論理が成り立っているんだろうが周りから見ると脈絡がない。話を聞いてほしいばっかりで他人の話は聞かない。悪い奴ではないんだけど、すごく可愛く思えるときと、たまらなく鬱陶しく思えるときがあるような、そんな奴。

周りの対応もとてもリアルで、それも、あるよなこういうこと……って感じだった。
空気の読めない発言やウザい絡みの後に、一瞬静かになるあの感じ。


まあでも、そういうところも含めて、なんていうか「許されてる」間柄なんだなと思った。
詳しいことはわからないが、五人がとても親しいことはわかる。
そして、幾度となくこんな風にお酒を飲んだり、他愛ない会話をしたりしていたことも。


ただ、こうして会うのは久しぶりだからか、ところどころ会話が噛み合わない。
周波数が合いきってないというか、思ったのと違うボールになっちゃうというか、そんな感じだ。

そういうところも、めちゃめちゃリアルだった。
どんなに仲が良くても、久しぶりに話すときはチューニングが必要になる。
会ってない間に、何か変化があったのなら尚更だ。


これも会話や雰囲気からの推測だが、五人の年齢は30代半ばくらいだと思う。
恐らく、仲間と演劇に打ち込んで馬鹿やってた20代の頃とは、少し心境が変わっているのだろう。
一緒に演劇をやっていた頃のことを懐かしく思い出し、「そんなこともあったね~」「またやりたいね~」と話す姿は、改めて自分自身と向き合い、ちょっと落ち着いた後のように思える。
一番昔のままのタイガも結婚しているし、飛鳥さんと森さんも結婚してるし、何なら妊娠もしている。


結婚や妊娠の話から、流れはいつの間にか別の方向に向かっていく。


決して嫁の顔を見せようとしないタイガ。
理由は「普通だから見せて微妙な反応になるのが嫌」

でも何とか説得して、四人はタイガの嫁の写真を見る。
と同時に、スマホの操作を誤って、タイガと嫁のハメ撮り動画まで流れてしまう。

「まって、これはなし」
「え、何?ハメ撮り?嫁?」
「タイガの声とかも入ってるの?」
「何それ聞きたい」

そして、なぜかハメ撮りを観るための交換条件として、その場にいる全員がタイガに喘ぎ声を聞かせることになる。

目をつぶるタイガ。
その周りで悩ましげな声をあげる四人の男女。


なんかもう何を見させられてるんだと思いながら笑いをこらえるしかなかった。


四人の努力の甲斐あって(?)、タイガはハメ撮り動画の続きを再生する。ただし、声だけだ。

聞きながら普通に話をする五人。
女の喘ぎがいよいよ切羽詰まってくると、みんなが一斉に口をつぐみ、耳を傾ける。
私もつい、一緒に聞き入ってしまう。

そしてフィニッシュの瞬間、タイガの声が入って再生が終了し、芝居も終わった。

 

…………えっ?


という感じだったが、イった瞬間に、役者がすっと立ち上がって頭を下げたので、私はその瞬間、自分は「聞き耳を立てる隣の客」ではなく、「観客」だったことを思い出して、拍手をした。

 

脚本・演出の加藤拓也さんが「観終わったあとにかなりどうでもいいと思えます」ってツイートされてたのはこういうことか~という感じだった。

 

あとマジでどうでもいいんだけど、私の観終わった直後の感想は「釜めしは!!?!」だ。
序盤に料理を注文するときに釜めしを頼んでいて、店員さんが「40分ほどお時間かかりますがいいですか?」と言った時点で、私は勝手に「上演時間が45分のはずだがら、この芝居は釜めしが出てきたら終わるんだな」と思っていた。
それが出てこなかったから、なんだか勝手に裏切られたみたいな、突き放されたような気持ちになった。

「もう45分も経った?????」というくらいあっという間に感じたのも事実だ。
夢中になりすぎて全然時間が気にならなかった。あと2時間くらいこのまま聞いていたかったし、何なら私も飲み食いしたかった。

 

というわけで、なんというか今までの観劇とは全く違う、新たな何かを経験した。

 

強いていうなら、この日の朝に都内某所のファーストフード店でうだうだしてたときに、隣の男子大学生グループが「この曲さっきからずっと流れてるけど途中で絶対マ◯コって言ってね?」なんて言うからつい耳を澄ませてしまったときと同じ感情だった(実話)。


めちゃめちゃどうでもいいんだけど、誰かに話したくなるような、そんな感覚。
私は一人だったので、余計に人に話したくて仕方がなくなった。あと友達に会いたくなる。


そういえば観終わってから、帰るまでにまだ時間があったので、カラ館に行ってちょっとだけヒトカラをした。
タイガが「カラ館でバイトしてた」なんていうから、ついなんとなく行ってしまったけど、あんまり何も考えずにいつも歌う特命戦隊ゴーバスターズのOPを入れたら本人映像で、さっきまで目の前でウザい発言繰り返したり下ネタ連呼していた鈴木勝大さんがピュアピュア桜田ヒロムとしてそこにいてドヒャ~~~~~~~~~となったりもした。

 

観終わったあとは「何だそれ!?」となったけど、トータルではめちゃめちゃ面白かったから、できるならもう一度観たい。
というか今週末にも(好きなバンドの解散ライブを観に)三軒茶屋に行くので、当日券チャレンジしようと思えばできなくもないのだが、公式から「できるだけたくさんの人に観てもらいたい」とアナウンスされてるので我慢する。
まだ観てない人で行ける日程がある人は是非観に行ってください。チケット代500円だし。

 

バージョン違いメンバー違いのあらゆる『かつて我々』を観たいから、同じような設定でまたやってほしい…………とも思ったけど、よく考えたら普通に街に出ればいつでもどこかで上演中なのか!?
えっ、何その「書を捨てよ、町へ出よう」みたいなやつ!

 

 

劇団た組の居酒屋公演「かつて我々」に関する記録としては以上なんだけど、本当はもう少し続きがある。


劇団た組の舞台は終わってから自分のことを振り返りつつぐるぐる考えてしまうところまで含めての作品だな~と思う。
今回の『かつて我々』も、内容を説明しても「で?」って感じかもしれないけど、そこには「いつかの私」が確かにいて、終わってからは目の前にいた人たちよりもそれを観ていた自分のことを考えてしまった。


ただ、うまくまとまらなかったので、それは別の記事にすることにして、とりあえずいったん終わります。

 

 

 

※追記。別の記事にしました。