中村彩乃『異郷を羽織る -Drape the Strange land-』から受け取ったこと
8月24日(月) 22:00~
一人芝居
『異郷を羽織る -Drape the Strange land- 』
企画・出演|中村彩乃
脚本・演出|岡本昌也
衣裳|yusho kobayashi
の配信を観た。
無観客上演の生中継。アーカイブなし。
うまく説明できないけど、なんだかものすごかったので、全然まとまらないけど書く。
例によってレポにも感想にもなりきらない何か。
本編はほぼ全編が英語で、単語は聞き取れたり、聞き取れなかったり。
ものすごく簡単な単語なのに意味がわからないこともあれば、何を言ってるのかわからないけどなんだかわかる瞬間もあって不思議だった。
時折するっと日本語が入ってきて、そうするとそこだけ浮き上がって聞こえるのも不思議だった。
上演台本は今日の24時まで公開されているらしい。
さっきダウンロードしてちらっと見たら、全部日本語に訳されていたので、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気がして慌てて閉じた。
まずは、率直に自分が観て受け取ったものだけを書こうと思う。
全然違ってたらごめんなさい。
そもそも全編英語なのは、この芝居が最初はロンドンで創作・上演されたものだからだ。
異国の地で、一人。
薄暗く照らされた舞台の上に、白い服をまとった中村彩乃がゆっくりと上る。
しかし、その身体はすぐに何かに押し潰されるように倒れてしまう。
容赦のない他者に晒される、無防備な自分。
──お前は誰だ? 何者だ? どこから来た?
私は、私は、私は、私は、
必死で立ち上がる。片足で。
両足では立てない。
地に足がつかない。
バランスを崩す。
立っていられない。
…………私は?
私は彷徨う。異国の地を一人。
木の枝にすがり、なんとか立ち上がろうとするが、上手くいかない。
私を支えるものはこれじゃない。
ポエムは私の国の言葉で、詩。
そして、同じ音の言葉の、死。
真っ暗な夜。白い息。
自分を包む孤独。
…………私は?
途方にくれて座り込む。
そして、だんだん自暴自棄になってくる。
中村彩乃は全編を通して身体表現がものすごかった。
見えない圧に押し潰されそうな肉体。
今にも消えてしまいそうな魂。
それらがそのまま舞台の上にあった。
どの瞬間を切り取っても美しくて、私が写真家なら夢中でシャッターを切るだろうなと思いながら観ていた。
衣装は、白い布が折り重なった上下だ。
動くとシャラシャラと音が鳴る。
折り重なった布が、静かに響く音が、中村彩乃の動きを際立たせる。
見えない圧に押し潰されそうな肉体は、その全てに抵抗しながらも、今にも消えてしまいそうな危うさがあった。
そこに一冊の詩集が降ってくる。
文字通り、天から降ってくる。
ボードレールの詩集。
母が何度も読んでくれた。
椅子に座って、詩集を開く。
そうして繰り返し、繰り返し、その詩を読む。
椅子の背にかかっていた色とりどりの布が重なった衣装に、中村彩乃が袖を通す。
そうして繰り返し、繰り返し、その詩を読む。
最初はたぶん英語で、それから、故郷の、日本の、自分の言葉で。
最初の日本語の朗読は、生の声ではないように感じた。
拡声器を口許にあて、かすかに唇を動かしているが、それはどこか遠くから聞こえてくるような気がした。
おそらくそれは"私"の記憶の奥底からよみがえってきた言葉なのだろう。
そうして次は、自分の言葉で朗読する。
一語一語確かめるように。
そして最後は、力強く。
俯いて、フードを深く被り、拡声器を通して発せられる声は、日本語だけど日本語ではないようで、私には彼女があえて自分の中にある言葉と意味をバラバラにしているように思えた。
そして、中村彩乃が顔を上げる。
フードをとって、真っ直ぐに前を見据えて。
私は。
私は。
私は。
私は。
異素材が折り重なった、色鮮やかな上着。
それを身に纏った彼女は、最初よりずっと大きく強くなったように見えた。
たくさんの「私」を、自分のものにして、前に進む。
なんだか凄いものを観たな……と思った。
ここまで書いて満足したので、脚本を読んできた。
全部が全部ではないかもしれないけど、私が感じたことは間違ってなかったような気がして、嬉しかった。
いや、正確にはちゃんと受け取れたかはわからないけど、演じ手が観客を信じて委ねてくれているのが嬉しい。
そういえばこの公演は、アーカイブなしの生配信という形式だった。
本当は劇場で生で観られると一番よかったのかもしれないけど、自室で静かに一人でPCに向かうのも悪くなかった。
とくに今回は、一人芝居ということもあって、本当に舞台上の俳優と観ている私が一対一になれた気がして、むしろ良かったかもしれない。
とにかくものすごく満たされたので、観て良かった。
まとまらないけど終わります。